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瓜連まちの風土記 第21巻

瓜連まちの風土記 第21巻

古徳沼と自然

 

【古徳沼】
みんなでつくり、守り、
愛しているまちのシンボル

 水辺をつくる人々の知恵とチカラにあえる
『第21巻』の画像
◆古徳沼は、江戸時代に、水の確保に困っていた瓜連の名も知れぬ人々がチカラをあわせてつくったため池である。
◆それゆえ、このため池を守るためには、人のチカラが必要で、いまも昔も瓜連の人々がチカラをあわせて守り続けなければならない。
◆古徳沼を歩いてみると、自然を活かし自然をつくった瓜連の人々のたくさんの物語にふれることができる。

ふと見あげると編隊飛行の群れが見えた。
先頭を行く白鳥の力強い羽ばたきのほかは、
まだ少しぎこちない。
けれどやがて、いつものように見事な
平行四辺形の影を落としながら
飛び去っていくのだろう。
21-03

「ああ、今年もこのときが来たな」掃除の手を
しばし休めて春先の空を望む。やわらかな
日差しは飛ぶ鳥だけでなく、ため池の水面を
照らし、若芽を伸ばし、人の気持ちを和ませる。

もう何年見たかわからない光景だけれど、
そのたびにめぐる季節と変わらない景色、この
絶妙なバランスがまだ保たれていることに
感謝する。
21-05

はじめてここに来たとき、何も無いところだと
思った。畑と田んぼがあったから、仕事と
食べることには困らなかったけれど、毎日、
毎日変わらない生活が最初はつらかった。
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朝起きて、食事をつくり、家族を送り出し、
畑仕事に精を出す。田植えや苗の繁忙期には
家族総出で仕事にかかる。律儀で健康的で
退屈な日々。
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子どもたちは毎日元気に学校に通い、
放課後は日が暮れるまで遊ぶ。
田んぼのあぜ道で蛙を捕まえたり、神社の
境内で小さな花を摘んだり、そういう田舎の
遊びができるのはいいことなのかもしれないと、
なんとなく思った。
けれど、まだそのときは見えていなかったものが
多かったのかもしれない。
21-11

一緒に暮らしているじいちゃんが町会の
班長になった。
「今年一年は大変だよ」
と話すじいちゃんは、それでもどことなく
誇らしげでうれしそうに見えた。
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班長は一年を通じて町内を見回り、不法投棄に
目を光らせ、ゴミを拾い、地道な美化活動に
いそしむ。白鳥が還ったあと、田植え準備前の
古徳沼周辺の草刈りは一大イベントになる。
町内会をまとめ、人も消防も総出でことにあたる。
気苦労は絶えないし、実際重労働だ。
21-15

「いつまで続くかわからないけどよ」と
じいちゃんがぽつりぽつりと話したことがある。
「俺らも歳をとるし、体もきかなくなってくる。
人も家も少しずつ減っているしな。でもなあ、
こうやって毎日、目の届くとこ、手の届くとこを
きれいにしてるとな、気持ちいいだろう」
思わず、ことんと納得した。
21-17

このまちは、白鳥の飛来するため池の周りだけ
でなく、家の裏側、あぜ道、車道と、どこもとても
きれいだったけれど、じいちゃんのような町の
人々がこまめに掃除をしているのが大きいのだ。
実際、よそ者が車で来て山の方に粗大ゴミを
放置していったり、車窓からコンビニのゴミ袋を
投げ捨てていくことも多いのに、それをそのまま
にせず、黙々と片付ける人々がいるから、それ
以上ひどくならずにすむのだ。
21-19

古徳沼に白鳥が飛来するようになって40年以上
がたつという。人の営みの中で形成された湿原が
最初の一羽を呼び寄せ、その後まちの人々に
よって多く招かれるようになった。
毎年行われる草刈りで人の手が入り、湿原の
様相を保つため池周りの植生は多様だ。スミレや
ツユクサ、ガマなどの湿原の草は青々とし、春や
秋の七草が季節を彩る。
21-21

古徳城址のほとり、少し小高い場所にある
古徳沼からは、付近の田や畑が一望でき、
遠景に瓜連の丘やまちが見渡せる。
まち中からあぜ道をゆっくり進み、ため池の
周りをたどれば、まちの人々が意識せず、
けれど注意深く整えてきた田園風景を味わう
ことができる。
雨あがりの抜けるような青空が映り込む
水たまりをのぞき込めば、人も風景の一部だと
感じることができるだろう。
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何もないこの町まちには、かけがえのない
美しさがある。それをつくり支えてきたのは、
まちの人々のつつましく、美しい暮らしぶり
なのだ。
放置すれば湿原が草原にかわり、やがて
藪となり林となって森になる。瓜連のまちは
人の営みがそれをとどめ、危ういバランスを
保っている。
21-25

じいちゃん、私にもいつまで続くかわからない。
でも、私と、子どもたちはじいちゃんの背中を見て
ここで暮らしている。
いつかじいちゃんのような、まちの人になれる
だろうか。
21-27

 

 
 2015年3月20日 発行

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