額田まちの風土記 第2巻
額田城
暮らしに寄りそう大きなお城 |
あなたは お城と聞いて何をイメージしますか。 お城を作ったのは、 領地をめぐって争い、 戦にあけくれた武将たちです。 彼らは、 お城に住んで、まちを守った。 夢を実現するために いろんな決まりごとをつくった。 |
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お城というと多くの人は、姫路城や この前の地震でこわれてしまった 熊本城をイメージするでしょう。 大きくて美しいそれは、 守らなければならない大切な文化財で、 日本のシンボルのような存在です。 しかし、そういうイメージで お城を理解してしまうと、 お城は鑑賞するモノになります。 それでは、私たちにとって ますます遠い存在になってしまいます。 |
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お城をもっと身近にするため、 ある小さなまちにある お城の話をしましょう。 この小さなまちのお城には、 大阪城の様な 立派な天守閣はありません。 熊本城のような見あげるほどの 石垣もありません。 かつてそこにお城があったことに 気づかせるわずかばかりの足あとと 深い森が支配するそのお城は、 額田城といいます。 |
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額田城は 東京ドーム20個分の広さがあります。 それを、戦国最大級の城とまで 表現する人がいます。 歴史が大好きな私は、 佐竹氏にゆかりがあり、 伊達政宗の起請文が発見された額田城に 訪れることができることを知り、 うれしかったです。 でも、それはとてもすごい事だと思うし 興味もあったのですが、以前訪れた 長浜城で石田正澄の賞状を見た時ほどの 感動は起きませんでした。 なぜなら、この時の私は額田城の 本当の魅力に まだ気がついていなかったからです。 |
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額田の住宅地を歩いていると突然、 額田城の入り口を 見つけることができます。 駐車場に「ようこそ額田城跡へ」と 手書きで書かれた看板が緑の中から 顔を出しています。 この城あとには、 立派な天守も櫓も本丸もありません。 しかし、その看板の隣を通り、 額田城の中へ足をふみ入れると、 そこから先には、 不思議な世界が出現します。 |
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あなたを迎えてくれるのは、 どこまでも果てしなく続く 深い緑の森です。 しかし、 森になってしまったこの城あとは、 なぜか歩きやすいはずです。 なぜなら、ふかふかとした 土のじゅうたんがしきつめられて、 遊歩道になっているからです。 その遊歩道をしばらく歩いていると、 額田城の住人たちに 会うことができます。 大きなキノコたちが、深い森から さしこんだ木もれ日に照らされて、 笑っています。 |
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額田城は、 とにかく緑がいっぱいです。 目をこらせば、小さい美しい花を 見つけることもできます。 額田城の二の丸のあとは よく手入れされた 花だんになっています。 二の丸のあとをぬけていく 遊歩道を歩いて行くと、 紫陽花が迎えてくれます。 このあたりでは、運がよければ、 ユリの花とたわむれる オオムラサキを見ることができます。 |
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不思議なお城の旅を誘ってくれる 遊歩道には、所々に 小さな木のいすが置かれています。 そのいすに腰をかけると、 額田城のありのままの自然と ゆっくり対話することが できると思います。 |
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太陽がそのまま照りつける7月、 今日は暑い。 それでも、額田城は 大きな緑に守られているので、 通り抜ける風はここちよく、 葉のすき間からもれる日の光の やさしさを感じることができます。 木と木のすき間からは、 城の向こうにひろがる青々とした 田んぼが一面にひろがっているのが 見えると思います。 その風景は、あなたが子どものころ、 ジブリ映画の「となりのトトロ」で 見た風景そのものです。 |
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額田城を歩いた私の体験を聞いて、 あなたはどのように感じましたか。 ジブリの映画に出て来るような 緑が美しい不思議なお城があることを 知ってもらったあなたに、 もう1つの 秘密の風景をこっそり教えます。 額田城の不思議な森の中に、 ひっそりとたたずんでいる 小さなお屋敷があることを。 |
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そのお屋敷は、その昔、 三の丸があったところにあります。 小さな畑と手づくりのブランコが 印象的です。 あなたは、この家の持ち主が生活する 光景を思い浮かべるだけで、 とてもうらやましく感じる ことでしょう。 |
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朝起きて、家の窓を開けると、 額田城の森が育んだおいしい空気が シャワーのように注ぎこんできます。 庭に出るだけで、 ありのままの自然とむきあえます。 森に「行ってきます」といえば、 森はやさしい風で 「行ってらっしゃい」と 見送ってくれます。 帰ってきたら、 森は、「お帰り」と迎えてくれます。 |
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額田城の森に守られ、 森の住人と森の四季を楽しむ。 ふかふかのじゅうたんを歩き、 そしてあの大きなキノコやちょうと 笑いながら遊び、そして学ぶ。 この家に暮らしている子どもたちは、 毎日が新鮮でキラキラ輝いているに ちがいありません。 |
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戦国時代の城と聞いて、 あなたはどの様な印象を持ちますか。 過去の遺産、遠い存在。 しかし、 額田城はそうではありません。 人々の手によって手入れされた 花だんや遊歩道があります。 三の丸のあと地には、 住宅もブランコもあります。 戦国時代最大級の城、かつて 戦で重要拠点だった額田城には、 敵の動きを見張る櫓も、敵の侵攻を 防ぐための石垣もありません。 しかし、額田城は、いまも 昔と同じようにやさしく 人々の暮らしを見守っています。 額田城は、額田に住む人々に、 額田に訪れた人々に寄りそう ステキなお城です。 |
2017年2月15日 初版第1刷発行 | |
取 材 | :堀内 瑠那、福田 莉子 |
著 者 | :堀内 瑠那 |
写 真 | :堀内 瑠那、福田 莉子 |
編 集 | :佐藤 里香 |
発行者 | :日本地域資源学会 |