額田まちの風土記 第16巻
小田倉工務店
手のチカラで幸せを育む家をつくる |
家族が毎日すごす家は、 幸せの創造装置である。 「大工とは、それぞれの家族の 思いを読み取りながら、依頼者の 家族のために100年使える 家づくりを目指している。」 |
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そう語るのは、 額田の大工名人、 小田倉敏行さんである。 |
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工房の奥で作業していた 小田倉さんが 笑顔でむかえてくれた。 小田倉さんは、15歳で 大工の世界に足をふみ入れ、 25歳で棟梁になった。 これまで何件もの家を手のチカラ だけでつくりあげてきたのだ。 |
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小田倉工務店には、さまざまな 材木と道具があふれている。 加工された材木には、「い」「は」と ひらがな文字が書かれている。 「このひらがなは、何ですか?」 「あ~これは、どれをどこに 組みあわせるかという順番を 書いているんだ。」 |
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なるほどと感心し、その柱の木に 目を向けると多くの文字が 書かれていたことに気づく。 「この梁を見てくれ、こんなに幅が あるものはめずらしいんだ。」と ニコニコと持っていたメジャーで 木の幅をはかりながらその丈夫さを 教えてくれた。 小田倉さんの材木へのこだわりを 肌で感じた瞬間であった。 |
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小田倉さんは手間のかかる 無垢の材木を使った家づくりに こだわり続けてきた。 無垢の材木を使った住宅は、 100年は持つし、 なおかつ安全であるからだ。 |
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こわす前の家の梁に使われていた 思い出の古木を使ってほしいという クライアントの注文にこたえ、 再生している材木を指さしながら、 「木は生きているから、カンナで けずれば新品になる。」と 話してくれた。 |
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加工に手間がかかり、 温度と湿度の状態で伸び縮み してしまう無垢材をあつかうには、 技もいれば、根気もいる。 それに何より時間がかかる。 だから、メーカーは敬遠する。 そして職人もいなくなる。 |
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手間を惜しまないで モノづくりにはげむ小田倉さんは、 素材選びにエネルギーを費やす。 いつまでも使い続け、 安心で安全な家をつくる という大工の使命を果たしたいから。 |
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半世紀もの時を超える経験が蓄積した 小田倉さんは、木のチカラを知り、 思いどおりのカタチを つくることができる大工である。 小田倉さんの魔法の手は、 大工の枠を飛びこえて、 家具屋にも、彫り師にもなる。 小田倉さんとの話はつきるどころか、 小田倉さんの長年の体験が、 頭の中で映像化され、 気づいたら私も 夢中になって聞いていた。 |
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2011年の東日本大震災で 額田のまちの神社仏閣も いくつか倒壊した。 小田倉さんは、 その再建をかってでた。 |
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大手建築会社が シミュレーションできない 再建プランを たった1人の知恵と力で やってのけたのだ。 大工の心意気と経験は、 科学技術をしのいだのである。 |
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「『大工と雀は軒で鳴く』のだ。 それほどまでに 大工はむずかしいものなんだよ。」 小田倉さんの長年の経験と苦労が その表情からうかがえた。 大工という仕事にプライドを持って 生きる小田倉さんの生きる哲学に 私は感銘を受けた。 |
2017年2月20日 初版第1刷発行 | |
取 材 | :久野 明日輝 |
著 者 | :久野 明日輝 |
写 真 | :久野 明日輝 |
編 集 | :畑岡 祐花 |
発行者 | :日本地域資源学会 |