額田まちの風土記 第17巻
木名瀬金物店
額田の底力をあしたに伝える博物館 |
額田のまちは、 昔から職人のまちであった。 かつて林業で盛えていた 久慈川の上流から材木が運ばれてくる このまちでは、その材木を加工する 建具屋が軒を連ねていた。 |
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額田では、 木を目利きすることができ、 木のチカラをいかし、自由自在に カタチをつくることができる職人が 住みつき、その職人たちを支える 商いが盛んに行われた。 木名瀬金物店は、 額田に暮らしている職人たちを 支えてきた100年の歴史を持つ 道具屋である。 |
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金づち、ペンチ、ドライバーなど、 ホームセンターでいつでも目にでき、 手に入れることができるはずの道具。 しかし、木名瀬金物店には、 見ただけではわからないが、 さわってみるとそのちがいが わかる道具、ホームセンターでは 手に入れることができない道具が ならべられている。 |
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工事現場や工場内で重量物を つりあげるためのアイフックは、 何種類もの大きさに分けられて 展示されている。 |
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ひずみを取りのぞいたり、こて面を 均一に仕あげる油焼仕上鏝は、 ホームセンターでは、800円ほどで 手に入れることができる。 ところが、プロが使う しなりのある鏝は4,000円もする。 1ミリの誤差にもこだわる職人は、 道具に投資するからプロ仕様を使う。 |
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木名瀬金物店には、そういうプロの 職人のための道具、職人の技を 活かせる道具がそろえてある。 ここは職人のための 道具ミュージアムである。 |
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個人の住宅も、 ハウスメーカーのそれが主流になり、 材木も輸入材が使われるようになった。 そういう時代の流れで、額田の 地場産業にまでなっていた 建具屋さんは、いまやほとんど いなくなってしまった。 木名瀬金物屋さんは、そんな額田で、 この額田のまちの記憶を いつまでも引き継いでいきたい。 そのような志を持って、 道具にこだわり、 道具屋さんを守り続けている。 |
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そんな気骨のある木名瀬さんは、 額田の大工の名人、小田倉さんと 大の仲良しである。 道具を手にとってはじまる2人の 対話はいつまでもつきることはない。 |
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職人が活躍し、木名瀬さんのように 職人を支える仕事がたくさんあった 額田のまちで、職人の手のチカラと その技をもっと多くの人に知って もらいたい、そして後世にのこしたい という気持ちが結びついた。 木名瀬さんと小田倉さんが組んで、 手のチカラをいかし、職人ができる 最高のモノづくりをいかした理想の 住宅を、店舗の隣にたてることにした。 |
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木名瀬さんがオーナー、 小田倉さんがデザイナーと大工の 役割をして、できあがったこの家は、 木名瀬家の幸せを育む住宅である。 それと同時に額田のまちを つくってきた職人たちの 生きるチカラとその技を展示する 「みんなのミュージアム」である。 |
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ミュージアムを見てもらう 木名瀬さんの笑顔が印象的であった。 このミュージアムをつくりあげるまでの こだわりを語る小田倉さんがそろうと、 話が止まらなくなる。 |
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「あんちゃん、 これも撮っておいてくれ。」 2人が指さす先には、階段から玄関まで つながる白い大きな長方形の石畳が しきつめられていた。 「これを作るのに2年もかかっでんだ。」 その表情は、苦労を語る顔ではなく、 素晴らしい笑顔だった。 |
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職人の技が見れ、職人の思いにふれ、 その生き様を見つけることができる ステキなミュージアムが 額田のまちにある。 |
2017年2月20日 初版第1刷発行 | |
取 材 | :久野 明日輝 |
著 者 | :久野 明日輝 |
写 真 | :久野 明日輝 |
編 集 | :畑岡 祐花 |
発行者 | :日本地域資源学会 |