額田まちの風土記 第22巻
梅乃家食堂
笑顔と愛にあふれるおいしいミュージアム |
梅乃家食堂に着いた。 のれんをくぐり店のドアを開ける。 「いらっしゃいませ」とやさしい声に みちびかれて席に着く。 |
|
店内にはまだ客はいない。 テレビと厨房でお店の人が せわしく準備している物音だけが 店内にひびきわたっている。 まわりを見まわしてみると、 「額田城ランチ」「額田藩ラーメン」 というメニューが書かれた表札が 目に入ってきた。 |
|
そのネーミングに心ひかれた私は、 これをぜひ食べてみたいと思った。 店の人からメニューリストを いただいたので、とりあえず 目をとおしてみることにした。 いろんな定食が用意されていて、 ラーメンにも心は動かされた。 しかし、第1印象のインパクトに 心を奪われた私は、額田城ランチを 注文してみることにした。 |
|
そして、 表には、額田藩という看板も かかげられていたことを思い出し、 額田という地名にこだわった お店であることを確信した。 メニューを決め終えてから、 食事が運ばれてくるまでの間に あたりを見まわして 店内を観察してみることにした。 お店のかべには、 力強い文字で書かれた メニューがはりだされている。 那珂市や額田地区の情報も きちんとはりだされていた。 |
|
注文してから 10分ほどの時間がたって、 「額田城ランチ」があらわれた。 ごはん、みそ汁、刺身、つけ物、 あげ物にデザートがついていた。 まさに中世のお城のごとくだ。 |
|
まずはじめは、 刺身からいこうと思う。 身がひきしまって コリコリするそれは、 私の食欲をいっそう加速させた。 次にあげ物に手をかける。 サックサクの衣の中には、 カキが入っていた。 みんなとてもおいしく、 私は夢中になって食べていた。 気がついたら、あっというまに、 味噌汁を飲み干し、完食していた。 |
|
私が「額田城ランチ」を 平らげているうちに、 職人さんと思われる人たちが 次々とお店に来店していた。 大工名人の小田倉さんと 木名瀬さんが教えてくれた 額田の歴史を思い出していた。 |
|
久慈川で 林業のまちと結ばれていた額田には、 建具屋さんがたくさんあって、 職人さんやそれを支える人々が たくさん出入りしていて、 職人を支える商いがたくさんあった。 梅乃家の食事もまたその流れを 継承しているのだと想像した。 お城をほうふつとさせる ボリュームのあるメニューは、 職人たちがいい仕事ができるように との思いからできたものだと ひとりで納得した。 |
|
そんなことを考えていると、 かべのそばにある 大きな柱が気になった。 食堂のこの柱も 小田倉さんのような職人の 手によってつくられたのではないか。 この額田の町の歴史が 心にしみてきた。 |
|
額田のまちでは、ひな祭り、七五三、 新年会に忘年会、家族の祝い事など コミュニティで何かあれば みんなで集まり、 食事をともにしてきた。 梅乃屋には、みんなが集まって、 祝い事ができる大きな宴会場がある。 私はその時、宴会場は、ふるさとの 祝い事の歴史がたくさんつまった 博物館になっていると感じていた。 |
|
ここにいるだけで、たくさんの人が、 笑顔でご飯を食べている姿や、 酒をくみかわす姿、そしてみんなが つながる姿が想像できる。 いまでは宴会場の利用が少しずつ 減りはじめているのだと聞いて さびしくなってきた。 |
|
帰り際、お店の常連さんから、 声をかけられた。 「どこから来たの。」 カメラを持って、店内を撮影する よそ者の様子が よほど気になったのだと思う。 出身地や天気といった さりげない会話がきっかけになり、 話はひろがりはじめる。 普段は無口な私も 会話が楽しく感じられた。 |
|
私はいつの間にか このコミュニティに参加している。 その1部に加わることができた私は、 おなかと心が 満足でいっぱいになった。 店を出る時、 なんだかとてもさみしく感じた。 心があたたまるおいしい空間に私は、 すっかり魅了されてしまっていた。 |
2017年2月20日 初版第1刷発行 | |
取 材 | :久野 明日輝 |
著 者 | :久野 明日輝 |
写 真 | :久野 明日輝 |
編 集 | :畑岡 祐花 |
発行者 | :日本地域資源学会 |