額田まちの風土記 第26巻
マルテック
農の魔法を楽しく伝える学芸員 |
額田駅を降り、 真っすぐ続く道を歩く。 田んぼの景色がひろがる のどかな道から 小さなわき道へ入ると ビニールハウスがあらわれる。 |
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このビニールハウスは、 まるで宝石のようにキレイな 野菜やフルーツが育つ 魔法のビニールハウスだ。 この魔法のビニールハウスで 甘い作物を育てているのが 額田がほこる農業の大先生、 成田丸さんである。 |
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先生は 「ハウス栽培用炭酸ガス発生装置 らんたんさんの株式会社マルテック」 という会社の社長である。 先生はやさしい笑顔と 真っ赤なトマトを差し出して 私たちをむかえてくれた。 |
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「どうぞ、 先ずは食べてみてください。」 トマトは窓から入る光を受け ツヤを放っていた。 ツヤを放つそのトマトは まるで宝石のルビーである。 |
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宝石のトマトを口に運ぶ。 トマトの果肉が歯にふれ 果肉がはじける。 |
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その時、 想像をしていなかったほどの やさしい甘みが口の中を満たした。 太陽と土、キレイな水の栄養を たっぷり浴びて育つ野菜の光景が 目の裏に浮かぶようだった。 |
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新鮮でハリのある甘いトマトを 先生は得意げにほほえんで見せた。 「トマトが苦手だという人でも 食べられると言われているんですよ。」 |
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トマトが苦手な人でも食べられる、 宝石のようなトマト。 まるで魔法だと私は思った。 |
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どのような魔法を使ったのだろう。 その魔法の正体を 先生はほほえみながら教えてくれた。 |
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「農業はね、 昔とちがって進化したんだよ。」 |
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その昔、農業には農家の経験が 重要であると思われていた。 晴れや雨などの天気 土の良し悪し 水の質や種まきの時期などを知る ためにはその土地を代々受け継いで きた経験が重要な役割を果たした。 |
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しかし、技術が進歩し コンピューターが普及した現代では きちんとデータをとり コンピューターで管理する農業が 求められている。 |
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ビニールハウスで温度と湿度を管理し 作物が1番おいしく育つ環境を つくる理由は外の雨風を防いで データで管理するからである。 |
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様々なデータをとることで どういう状況を保てば おいしく育てられるか それをつきとめることができる。 失敗してしまった場合は 何が悪かったのか どこを改善すればよいのかを 把握することができる。 |
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成田先生が育てる野菜やフルーツは ビニールハウスでデータをとり 調節と研究をつづけ 大切に育てたモノである。 集めたデータをまとめ 調節と研究をくり返したその成果が 宝石のようなトマトなどの 野菜たちである。 |
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成田先生は このビニールハウスで育った 野菜やフルーツを近所の人たちに くばっているという。 それを聞いた時 ご近所づきあいのためだろうと 考えた。 |
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しかしそうではなかった。 成田先生には、研究のたまものである 野菜の味について ありのままの声を聞くという 目的があった。 |
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「今月のはイマイチだね。」 「この前の方がおいしかった。」 |
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「おいしくなかった」という 答えが返ってきたら データを見直し、 何がいけなかったのか 何が前回とちがったのか それを調べ、改善するのだという。 |
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人々の声とデータを照らし合わせて、 先生はこのトマトを おいしく育てあげている。 |
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太陽光と水に炭酸ガスがあること。 光合成の原理が1番大事なんです。 |
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あたたかい太陽の光、 額田のキレイな水、 株式会社マルテックの 炭酸ガス発生装置「らんたんさん」。 |
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光合成をするための3つの要素に加え 成田先生のデータの収集と研究が 縁結びして 甘い宝石のようなトマトが育った。 |
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魔法の正体は、そこにあった。 |
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ここまでの話で 額田が誇る農業の大先生成田さんが 農業の研究者であることが わかってもらえたと思う。 しかし、成田さんは、 それだけではなかった。 |
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成田さんは青森から九州まで 全国の農家の悩みや質問を 聞きまわっている教育者でもあった。 |
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先日も栃木県の農を志す若者とあい 情報を交換してきたのだという。 |
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自ら行った農業の研究の成果を 全国の農家に発信し 情報を共有しながら 改善の道をともに考える活動を 展開している。 |
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そんな活動を展開している成田さんは まさに額田が誇る農業の大先生 ではないかと私は思った。 |
2016年12月8日 初版第1刷発行 | |
取 材 | :堀内 瑠那 |
著 者 | :堀内 瑠那 |
写 真 | :堀内 瑠那 |
編 集 | :畑岡 祐花 |
発行者 | :日本地域資源学会 |